(なんや、最近、氷室センセ色っぽいようなカンジするなぁ)
俺はふと頭に浮かんだ考えを消し飛ばすかの様に頭をブンブン振った。
(あ、ありえへん!俺、今、ごっつ変な事考えたんか?)
問題に目を落とし別の事を考えようとするんやけど…問題はセンセなんやな…無防備に寝とる。
なんやお疲れさんなんかなぁ?
ほんまに起きてる時は眉間に皺寄せてごっつ怖いんやけどなぁ…寝とるとこう…可愛いっていうかな…なんか悩ましげな表情浮かべとるし…
って、また俺は何考えてんや!えーい!俺のアホ!
って一人漫才しとってもしょうがないしなぁ…
鈴鹿がおったらなぁ…ツッコミ役を…って、俺、ホモ宣言するんか?
いやいや…アイツの事や、冗談で軽く流してくれるやって。
そもそも、アイツが悪いんや。怪我をしたからゆうてガッコ休みおるから。で、こんなとこに押し込まれてるんや…健全な男子やさかい妄想の一つや二つ…
「って男やろ!」
俺はつい声を上げてしまったんやけど…起きる気配はなさそうや…
俺は立ち上がり寝とるセンセの傍に近寄ってみたんや
(悪いんのは寝とるセンセやからな?)
俺は近付いてじっと寝顔を観察したんや。
(おっ!睫長っ!色も白いなぁ…よく見ると綺麗な顔してたんなぁ…考えてみたら俺、センセの怒った顔しか見た事あらへんしなぁ)
苦笑いを浮かべながら観察を続けて俺はセンセの首筋に赤い痕があるのに気付いたんや。
(虫刺されの痕かなぁ?でも虫刺されにしてはでっかい様な…もしや…これってキスマークってヤツですかぁ!?)
俺は寝とるセンセをマジマジと見ながら溜息をついた。
センセかて成人した男性やもんなぁ。カノジョの一人や二人くらいおっても不思議やあらへんしなぁ。
(カノジョの前ではこの仏頂面も笑うてたりするんかな?センセの笑うた顔、見てみたいなぁ)
「せやけど、ほんまにぐっすり寝とるなぁ…こないに無防備に寝とるとイタズラされちゃいますよ?」
俺はセンセの耳元で囁いてみた。センセは少し唸ってから誰かの名前を口にしたみたいやった。
小さくて聞きとれんかったんや。でもな、その後、ごっつ幸せそうな顔したんや。
(カノジョの名前なんか?)
俺は納得した様に頷きながらセンセの寝顔を見つめたんや。

「あのアンドロイドにこんなん顔させてしまうやなんてごっついカノジョなんやろなぁ…」
俺は苦笑いを浮かべながらセンセの前髪に触れてみたんや。
柔らかくて触り心地がええなぁ…そこらの女子よりもちゃんとヘアケアしとる…
「…は…済まない。もう少し眠らせてはくれないだろうか?…君のせいで睡眠不足だ。」
俺はセンセの寝言を聞いて髪を触るのをやめてじっと見つめたんや。
(俺にゆうたんか?確かに俺と鈴鹿が赤点取るからセンセが補習をする訳よって…センセは寝る間も惜しんで俺らの為に問題を作ってくれたんか?
俺はそんなセンセの気持ちを知らずに逃げる事ばかり考えとった)
「堪忍な。センセ。俺、これから頑張るからな。」
俺はセンセの顔に顔を近付けて囁いたんや。
「…よろしい。期待している。」
そしたらな、センセ、満足そうな笑顔を浮かべながらゆうてくれたんや。
この顔を見れるんなら俺、頑張るでえ!
ほんまに寝言でなくてな起きとる時に笑ってエクセレントって言ってもらうでぇ!
なんか、そう思ったらやる気出てきたで!
俺は席に戻って残りの問題にとりかかる事にしたんや。
でも…少しイタズラ心がわいて…
「無防備に寝とるセンセが悪いんやからな?ほんまにオオカミさんに食われてまうで?」
俺は囁いてからセンセの顔に顔を近付けて軽く唇を重ねたんや。
男同士なんやけどセンセは嫌なカンジがしいへんてゆうか…逆に心地よかったんや。
なんかエエ匂いもするしなぁ…
アカン、これ以上は理性がもたへん…
俺はセンセから離れて席について問題に取り組む事にしたんや。
………………………。






「姫条。」
(おっ、誰か呼んでるんか?)
「姫条、起きなさい。」
(なんや?もう少し眠らせてや…)
「起きないか!姫条!」
「な!なんや!?」
目が覚めた俺は険しい顔をしたセンセの顔に焦ったんや…。
俺、あの後、寝てしまったんか?
しかしまあ…ごっつ怖い顔してんなぁ…俺のせいか…
「補習中に眠るとはどういう了見だ?姫条。」
「せやかて、センセも寝てたさかい。」
「私がか?見間違いでは無いのか?」
「ほんまにぐっすりよう寝とりましたよ。」

そうか。では今日はお互いゆっくり家で眠るとしよう。」
センセは微かに苦笑を浮かべながら立ち上がりゆうたんや。
苦笑いってカンジやけど笑いかけてくれたんよな?俺に対して俺だけに?
「俺、頑張りますから!センセの自慢の生徒になりますから!」
「やっと、君にも自覚が出てきた様だな?姫条。よろしい。寸暇を惜しんで勉強に励みなさい。しかし、君の目指す道は長く険しいぞ?」
「わかっとります!けど、俺、センセに認めてもらいたいから…。」
(そんな期待に満ちた顔で俺を見つめんといてやぁ…)
センセのお気に入りの生徒になってセンセといる時間を増やそうという下心がある俺にはセンセの眼差しは少し痛かったんや。
(でも動機がどうであれ成績が上がって怒られる事はあらへんよな)
「期待をしている。では以上だ。私は人を待たせているので失礼させてもらう。君も早く帰宅をするように。失敬。」
センセはさっさと帰り支度をして教室から出ていったんや。
センセの待たせてる相手って誰やろな。
ってカノジョおるんやろなぁ…
俺は見るとも無しに窓の外を見てみた。
夕闇の校庭を横切る姿に手を振ってみた。
(なんかもう…恋わずらいの心境やなぁ…これ、ほんまもんですか?)

俺はセンセの姿が校庭から見えなくなるまで見送ってから教室から立ち去ったんや。

〜後日〜

「ま、待てよ!姫条?おまえどうしたんだよ?自分から氷室のヤローの補習に出ようだなんて?」
「俺は勉強に目覚めたんや!せやからな、鈴鹿、おまえもしっかり勉強しないといかんで?」
「おまえからそんな言葉が聞けるなんてな…ちと、気色悪いぜ。」
「そうか?学生の本分は学業だからなぁ!和馬くんは部活動に励みなさい!」友人のいきなりの変貌ぶりに鈴鹿は溜息をついた。
(なんだ?アイツ…氷室のヤローみてえな事を言い出して…はっ!?もしかして地下の教会で改造されたのか?)
「姫条?大丈夫か?なんかよ…悪いもんでも食ったんじゃねえのか?」
「問題ない!なんてな。ほんならな!寸暇を惜しんで学業に励まないといけませんからなぁ。」
軽い足取りで補習に向かう友人を鈴鹿は溜息をついて見送った。
(春はもう終わったよな…アイツの頭、どうかしたのか?)








END