「きっ、君は、私にこれに乗れというのか?」
穏やかな春休み、はばたき山遊園地にて氷室は最大の試練に直面していた。 
「…ダメですか?」
小首を傾げて氷室に尋ねる少女。彼女は元氷室の担任していた生徒で今は彼の大切な存在だった。
「確かに、私は君の希望を尋ねた。…だが、しかし、これは…。」
彼の前には煌びやかな装飾をされた白馬や馬車が軽快なメロディとともにまわっていた。
「もう、良いです。私、零一さんを困らせたくないですし…。」
彼女は悲しげな眼差しで微笑んだ。
「分かった、分かったから。」
氷室は覚悟を決めた。
「…コホン。行くぞ。」
彼女は嬉しそうに氷室の手を握った。
運転を合図するベルが鳴り響き、彼の周囲が鮮やかに回り始めた。
ほんの数分が氷室には何年にも感じられた。めくるめくメルヘンの世界の中、氷室は友人の助言に応じた自身を後悔し始めていた。
彼女はと氷室が見ると溢れるばかりの笑顔で氷室を見つめていた。
(…悪くはない…)

「やっぱり、イヤでしたか?」
メリーゴーランドから降りた後、彼女が不安げに氷室に尋ねた。
「…コホン。たまには悪くは無いな。」
彼女はたちまち笑顔になり彼の腕に掴まった。
顔を耳まで真っ赤にしながら氷室は彼女と歩きながら又、彩りを与えられたことを感じるのだった。