「零一さん、ちょっとしたゲームをしませんか?」
昼食を終えて食後のコーヒーを楽しんでいる氷室に彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら問いかけてきた。
「ゲーム?」
突然、提案を持ちかけられ彼は手にしたコーヒーをテーブルに置き不思議そうに問い返す。
「はい。負けた方が勝った方の命令に必ず従うゲームです。ダメですか?」
「フッ。面白い。俺は勝負事ならどの様な種目にも負けるつもりはない。また、挑戦を辞するつもりもない。」
「じゃあ、オッケーなんですね?」
「ああ。で、一体、どんなゲームをするつもりなんだ?オセロか?チェスか?ポーカーか?」
「えっと…王様ゲームってご存じですか?」
「“王様ゲーム”?なんだ、それは。全く知らない。聞いたこともないな。」
「やっぱり。」
「“やっぱり”とは?」
「えっと…気にしないで下さい。ルールは本当にシンプルなんですよ。」
と言いながら彼女は割り箸を2本持ち氷室の目の前に見せ、微笑んだ。
「この割り箸の先っぽが赤くなっていたら当たりなんです。で当たったら、相手に命令出来ちゃうんです。本当は大勢でやるゲームらしいんですけど、今回はわたしと零一さんだけしかいないから。」
「確率の問題か。勝敗を決するのは全て運次第という事だな。では試しに引いてみるとしよう。」
氷室は彼女の持っている割り箸を一本、引き抜いてみた。
「どうやら、当たりのようだな。」
微かに嬉しそうに微笑む氷室に彼女は笑い返して
「うーん。負けちゃった。じゃあ、命令お願いします。」
「命令?突然言われても何も思いつかないな。」
「それじゃあ、ゲームとして成り立ちません!」
「それもそうだな。しかし…現状の君に対して要求など何もない。パスは駄目なのか?」
本当に思いつかなく困った様に目を伏せる相手に彼女は微笑んだ。
「じゃあ…今回だけですからね?もう、じゃあ今度は零一さんが同じように持っていて下さい。」
氷室は言われるままに割り箸を持ち相手に引かせた。
「う…。ハズレかぁ。じゃあ零一さんが勝ったので命令お願いします。今度はパスはダメですからね?」
「全く…。」
氷室は渋々と立ち上がり部屋から出ていき数分後に問題集を手に部屋へと戻ってきた。
「では、この問題集の23ページ問い3を答えなさい。」
「え〜!?」
「“え〜!?”ではない。ほら、制限時間は10分だ。始めなさい。」

涼しげな相手の表情に澪は唇を尖らせて問題集に取り組む事となった。

「もう…本当はこんな風じゃなかったのに…。」
「何か言ったか?」
「いーえ!何にもっ!」
彼女は首をブンブンと振り問題集を解いていった。数分後。
「フム。大変結構。公式も解答も間違いが一切ない。流石だな。やはり君は俺の自慢の生徒だ。」
「元生徒です。」
不機嫌そうに応じる相手に氷室は不思議そうに首を傾げ尋ねた。
「どうした?何やら不機嫌そうだな。」
「別にっ!ほら、続きいきますよっ!」
サッと割り箸を目の前に出す相手を訝しみつつも氷室は割り箸を引き抜いた。
「当たりだ。」
「うっ…。」
「次はそうだな。54ページ問い6を答えなさい。制限時間は前と同じだ。始め。」
彼女はまた問題集を開いて問題に取り組み事となった。
「次こそは勝つんだから…。」
「澪、このくだらないゲームを一体、君はいつまで続けるつもりなんだ?」
澪はキッと相手を睨みつけ
「わたしが勝つまでですっ!」
と答え問題を解いていった。相手の思わぬ気迫に氷室は一瞬たじろぎ溜息をついた。



「30勝0敗。まだ続けるのか?」
数時間後、答えに埋め尽くされた問題集をパラパラとめくりながら呆れたように氷室は相手に問いかけた。
「だって、まだ勝ってませんから。わたし…。」
鬼気迫る表情の相手に氷室は苦笑を浮かべ問題集をテーブルに置いた。
「わかった。勝敗関係なしに君の命令を聞こう。それで良いだろう?」
「それじゃ、ゲームになりませんからっ!」
「しかし、2分の1の 確率で君は30回外しているんだ。余程、運がないのだろうな。」
「うっ…。」
「ほら、諦めて俺にして欲しいことをいってみなさい。君の熱意を酌み可能な限り要求に応えるから。」
「…キスして下さい。」
「は?」
相手の意外な答えに氷室は思わず声を上擦らせ聞き返した。
「だって、零一さんからしてくれないじゃないですか。だから、なっちゃんに相談したら、王様ゲームをやると自然とそういう流れになるよって教えてくれたから…」
「では、君は俺に…その、キスをされたくて勝負を持ちかけてきたというのか?」
「そうです。好きな人ともっと触れ合いたい、零一さんに…。」

「全く…君は。」
氷室は相手を抱き寄せると両腕で包み込んだ。
「その様な回りくどい方法を取らなくとも…」
氷室の言葉を遮るように彼女は呟いた。
「しないとしてくれないじゃないですか…目を閉じてみても“眠いのか?”って取り合ってくれないし…」
「そ、それは…その、そういう流れにならないように…」
「流れにならないように?イヤなんですか?」
「嫌とか嫌ではないというなら嫌ではない。…俺だって男だからな。ただ…」
「ただ?」
「キスをするだけでは抑えきれなくなっているんだっ!その、それは…つまり…君を求めている訳であり、しかしながら…君は…」
顔を耳まで真っ赤に染めて懸命に言葉を探す相手に澪は嬉しそうに微笑み顔を相手の胸に埋める。
「わたしも零一さんを求めています。
…抱いてください。」
彼女は氷室の首に腕を回し顔を近付け唇を重ねた。
軽く触れ合うように重ね合わせ次第にお互い歯列の隙間から舌を潜り込ませて絡め合わせる。吐く息には熱が帯び求め合い更に唇を重ね深いキスを交わした。
唇を重ね合わせながら氷室は相手に重心をかけるようにソファーの上に押し倒しその着衣の上から膨らみに触れた。
恥じらいに顔を紅潮させた相手が瞳を潤ませて氷室を見つめる。
「移動した方がいいのだろうが…済まない。我慢の限界だ。」
「わたしも、早く零一さんが欲しいです…。」
瞳を潤ませて熱を帯びた声で応える彼女を更に愛おしく思い、彼は唇を重ねた。
ボタンを一つ一つ、ゆっくりと外していき彼は露わになった彼女の白い柔らかい肌に唇を落とし赤い痕を付けていく。
「痕が残るから困るんですけど…」
「こうしておけば良からぬ虫が寄り付かないだろう?」
「そういう理由があったんですね?」
「物事には理由は必ず必要だ。俺は無駄な事はしない主義だからな。」
「もう…。」
彼女は氷室の不敵な笑みにクスリと悪戯っぽい笑みを浮かべながら首に腕を回し彼の首筋のワイシャツの襟元で隠れるか隠れないかの位置に唇を落とし赤い痕を付けた。
「これで、おあいこですよね?」

満足そうに微笑みながら氷室の首筋についた痕を指先で触れる。
「全く…君は。」
氷室は苦笑いを浮かべながら彼女の額に唇を落とした。
「君にはかないそうにないな。」
「え?わたし、零一さんに勝ったことなんてないですよ?」
「フッ…フフッ。」
「何がおかしいんですかっ?」
「いや、気にするな。ほら、力を抜きなさい。」
氷室は着衣を更に脱がしていった。
一糸纏わぬ姿にお互いはなりお互いを求め肌を重ね合わせる。
吐息は更に熱を帯び額から汗が滴となり伝い落ちる。
「やっ!」
氷室の指先が触れ彼女は思わず声を漏らす。
「嫌なのか?」
恥じらいの表情で目を閉じたまま首を否定的に振り彼女は氷室の背中に腕を回した。
氷室は愛おしそうに見つめると更に指先をその内部へと侵入させる。鍵盤を弾くように指先が彼女に触れる度に彼女は甘い吐息と声を漏らした。
「つらいくはないか?」
「つらくないです。幸せなんです。」
「そうか。俺も満ち足りた気持ちで一杯だ。君に触れているだけで不安が解消される。」
「不安ですか?」
「ああ。今でも君が俺の元から離れてしまう夢をたまに見るんだ。」
「わたし、絶対に零一さんの傍から離れるつもりはないですから…。」
「そうだな。済まない。つまらない事を言ったな。」
「零一さん…大好きです。」
「ああ、俺も君を愛している。」
彼は身体を彼女の足の間に割り込ませた。
「では、力を抜きなさい。いくぞ。」
与えられる衝撃に彼女の背は反り返りピクンと震えた。
澪は自分の中に相手が入ってくるのを感じて相手の背中に回す腕の力に力を更に込めた。
「あっ…はぁはぁ。」
「やはり…つらいのか?君につらい思いをさせたくないが…。」
「つらいんじゃないんです。本当に幸せなんですから。零一さんに触れられない方が不安で仕方ないんですよ。わたし…。」
「そうか。では、これからは遠慮をするのはやめるとしよう。」
「はい。お願いしますね…。」
瞳を潤ませつつ見つめる相手を柔らかな眼差しで見つめながら氷室は更に振動を与えていく。
「零一さんっ!」
「澪っ!」
お互いの名を呼び交わして彼らは果てた。

「…ん。どうやらあの後、眠ってしまっていたようだな。」
目覚めた氷室は隣でスヤスヤと寝息をたてている相手に笑いかけた。
「こうして寝顔をみていると、まだまだ子供だな。君は。しかし、実際は確実に大人になっているんだな。フッ。済まない。大学生に対する発言としては詭弁だったな。」
氷室は軽く相手の頭を撫でると起こさないように静かに相手の身体を抱き上げて寝室へと向かい部屋から出ていった。

END




はい。本編からだと丁度、ホワイトデーからクリスマスに続く話になります
ホワイトデーで既成事実を達成させた割にはまだ、センセとしては葛藤を続けていたと(笑)
で、この後から、クリスマスの様な発言も出ると(笑)
では久し振りの18指定はどうでしたでしょうか?
では逃げます!