彼は彼女の歩調に併せ自転車を引きながら歩いていた。
帰り道が同じ二人の優しい幸せな時間。
規律を重んじる彼は“二人乗り”など決してするつもりはなかった。
自分に厳しく他人に厳しくを地でいく彼の名は氷上格。羽ヶ崎学園の生徒会役員兼風紀委員。
シルバーフレームの眼鏡のレンズ越しに規律に違反している生徒が居ないかいつも絶えず探す鋭い視線。
その結果、彼は他の生徒から敬遠され友と呼べるものが居なかった。“孤独”殆どの人間なら嫌がり無理やりにでも他人に合わせて逃れる状況。しかし、彼は気にしなかった。
くだらない人間とは付き合う事もないだろう。僕は僕の掲げる理想で生きるんだ。
そんな彼にも転機が訪れる。
……一人の女子生徒との出会いにより彼の世界は鮮やかに変化していく……


他の生徒が遠巻きにする中、彼女だけは違った。校内で絶えず声をかけてきて幾ら彼が冷たく返そうとも退くことはなかった。
徐々に自分に声をかけてくる相手に彼も興味を持ち始める。
最初は“変なヤツ”それがいつの間にか大切な相手に変化していくのに時間はかからなかった。

彼は自転車を引きながら地平線に沈みかける夕日を背に彼女に優しい眼差しを向ける。それに気付かれ笑い返され顔を赤く染めた。
言葉を交わす事はなくとも傍に居てくれるだけで心が満たされ自分の理想に共に付いてきて欲しいと願う唯一の存在。
彼は微かに微笑を浮かべた。
刹那、彼等目掛け白い物体が飛んできて彼女の頭に当たる。
彼は自転車を放り出し彼女に駆け寄った。
倒れた自転車の車輪がカラカラと音をたて回る傍には白い野球ボールがてんてんと転がった。

「大丈夫か?……くん?」
平気と心配する相手を気遣うように無理やり微笑をつくる相手に彼は否定的に首を振る。
「念の為に病院に行こう。今の時刻でも総合病院の救急外来なら開いているはずだ」
大袈裟だなと苦笑する相手に彼は更に頭を振る。
「打ち所が悪かったらどうするんだ!ほら、乗るんだ!」
倒れた自転車を起こし彼女に後ろへ乗るように促す。
二人乗りは校則違反じゃなかったけ?と尋ねる相手に彼は一喝する。
「緊急事態には校則も関係ない!救急車でも信号無視をするだろう!」

総合病院の救急外来入り口に彼は自転車を横付けにし彼女を降ろし抱きかかえて受付に駆け込んだ。
折りよく待合室は空いていて彼らは数分後に診察を受ける事ができた。
「軽く瘤が出来ていますね。冷やしておけば問題ないでしょう」
診察をした医師ににっこりと微笑まれて彼は安堵の溜息をつき彼女は少し恥ずかしそうに俯いた。
様子を見て悪戯っぽそうな笑みを浮かべた医師が彼女に言う。
「良い恋人をお持ちで幸せですね?いや〜若いって良いですねえ」
隣の彼女に負けず劣らず彼の顔も真っ赤に染まった。

冷湿布を処方され二人は帰途へとついた。
「済まない。少々、気が動転していたようだ」
自転車を引きながら頭を下げる相手に彼女は満面の笑みを浮かべ答える。
「心配してくれてありがとう。とても嬉しかったよ」
彼は嬉しそうに表情をほころばせ笑い直ぐに照れ隠しに視線を逸らせ上擦った声音で答える。
「と、当然だろう。君は大切な僕の学友の徒だからな。ほら、時刻も遅い。急ぐぞ?」
自転車を片手で支えつつ差し出す手に彼女は重ね握りしめる。
その手をしっかりと握りしめ彼は想う。

この手を絶対に離したくはない……と。


END


無謀過ぎる格小説はどうでしたでしょうか?(汗)
格の口調は一人称以外学生時代のセンセをベースにしてみました…

ではお疲れ様でした♪