いつからだろう…
俺、あの人が気になる様に…なったのは…
いつも、気難しい顔して…他のヤツらから怖がられて…
ごめん。俺も…少しだけだけど…あなたの事、避けていた。

休みの日、公園で昼寝してる時、よく“校外指導”で起こされた。
初めの時は、うるさいって思った…
だから、あなたに見つけられにくい場所、探した。
けど、あなたはすぐに見つけてくれた。
変な教師、って思った。
だって、俺がどこで寝ようと…他の先生は気にしないから。
あなただけ…でしたよね?
毎回、俺を探しては注意する先生は。
いつからか、あなたに見つけてもらうのが…楽しみになってたんだ。
俺と…あなただけのゲーム…
また…見つけてくれますか?
「あ…また俺、寝てた。」
俺はまだ、ぼーっとした頭を振って無理矢理、覚醒させた。
低血圧。今の俺の状態を表す言葉。
コチコチコチコチコチコチ…
シンプルなデザインの掛け時計。あの人の趣味だ。
俺は、黒い革張りのソファーに寝転がった。
掃除の行き届いた必要最低限の物しかない少し殺風景な部屋。
無駄が嫌いなあの人らしい部屋。

「俺の部屋もそう変わらないけど…」

まだ帰らない、あの人を想いながら俺は一人笑みを浮かべた。

時計の針、7時を指してるけど…まだ、帰ってこない。
秋の釣瓶落としって、あの人が言ってたみたいに…もう太陽が沈んで、部屋の中が夕闇に包まれてる。
「今日、何の日か…知って…いるのかな…零一。」
俺は、恋人の名前を呟いて寝返りをうった。
零一。氷室零一。
俺の、担任。…俺の…大切な人。

零一は生徒、一人一人に…きちんと目を配る先生だ。俺に対しても…そうだったのかも知れない…
少し、気にかかる生徒…あの人の俺に対する認識。

けど、俺はイヤだった。あの人の“特別”になりたかった。
俺だけを…見てほしかったんだ。




「…王子は必ず…迎えに来るから…
約束。」

懐かしいな…。俺、小さい。あいつに…絵本、読んでやってる。
ごめん…約束守れなかった。
王子は、姫を迎えに行けない…
おまえより…大切なヤツ見つけたんだ。


「寝てた…な。俺。」
本当に、あの人に言われた様に…睡眠障害、かも知れない…
時計は、8時を指していた。
「遅いな。零一。」
今の時期は文化祭の準備、あるから、あの人はイキイキと“我が吹奏楽部”を指導して…いるんだろう。
俺は指揮棒を手に吹奏楽部をしごいている、あの人を想い笑みを浮かべた。

「でも、今日くらいは…帰り、早くても…。」
鳴らない、携帯電話を睨みつけて…俺は溜息をついた。
今日くらい…。今日、10月16日、俺、葉月珪の誕生日。
あの人が、知っているかは…知らないけど。
誕生日を大切なヤツと過ごしたいって…思うのは…贅沢なのか?
零一と一緒に食べようと思って…買ってきたケーキとノンアルコールのシャンパンが入った…冷蔵庫を睨みつけて俺はソファーから起き上がった。
「…バカ。」
既に9時を指してる時計を見つめ、俺は帰らない相手に呟いた。





カチャカチャとオートロックが外れる音に気付いて…俺は玄関へと走った。
祝ってくれなくてもいい…
あなたさえ…一緒に居てさえくれば…

ドアが開いて、現れたあの人はケーキの大きな箱を抱えて…少し罰の悪そうな顔してた。
「遅くなって済まない。珪。誕生日おめでとう。」
微かに笑って、走ってきて息切れしているあなたを俺は…思いっきり抱きしめたんだ。
「こ、こら。珪。ケーキが潰れるだろう?」
俺は頭を振って、更に抱きしめた。
「ケーキも、プレゼントも…要らない…
零一、あなたさえ…居てくれさえすれば…」
思わず、俺の頬を伝う滴を…あの人の指先が優しく拭ってくれる…
不安げに俺を気遣う…あの人の深い碧色の眼差しに…見つめられると…俺の不安な気持ちは…消えていったんだ。
しばらく経って、俺が落ち着いたのを見て二人きりの誕生日を祝ったんだ。

二つのケーキに…零一の手料理…
知ってるか?零一って…料理、上手いんだ。
テーブルの上に並んだ、料理の数々…

「一人暮らしが長いからな。大抵の事なら難なくこなす事は可能だ。」
手馴れた、手つきで料理を作っていくあの人を見ながら…かなわないなって俺、思ったんだ。

でも…嬉しかった。
零一が、俺の為だけに…料理作ってくれてるんだって思うと。
「ほら、冷めないうちに食べなさい。珪。」

エプロンを…畳みながら促す相手に、俺は…笑い返した。
けど…


皿の中には、俺の…嫌いな、生野菜の苦いヤツ…
「水菜と明太子のパスタだ。水菜はシャキシャキ感を損なわせぬ様にさっと湯がいて茹でたてのオリーブオイルを絡めたパスタと合わせてある…」
零一の説明を…聴くともなしに…聴きながら…俺は、皿を睨みつけた。
他には…子牛のエスカロップ風(付け合わせにクレソン)、ほうれん草のポタージュスープ…
零一から見えない…悪意を感じた。
「どうした?食欲が無いのか?」
そうだ、分かってる…零一に、悪意が無い事は…
俺は、覚悟を決めて…フォークを手に取って、パスタを口に…放り込んだ。

「どうだろうか?」
少し…不安そうに尋ねる相手に、俺は笑い返して言ったんだ。
「うまい、と思う。」
相手は、ほっとした表情を浮かべて嬉しそうに…笑ったんだ。
「そうか。君の口に合ったのなら幸いだ。それに…その料理は…が付加されているからな。」
照れくさそうな、顔をして説明する、零一が…言ったら怒られてしまいそうだけど…。
「可愛い…。」
思わず、呟いたら…やっぱり、怒られた。「か、可愛いとは、成人男性に対して不適切な表現だ。」
顔を、真っ赤にして…拗ねた様に口ごもる相手を、更に…愛おしく思った、俺は立ち上がって…相手に近付…上向かせて唇を重ねた。


「…んっ…」
唇を離して、相手に笑いかけると…茹でタコみたいに、なった零一と目が合ったんだ。
いつもは、冷静な先生が…俺の、キスでこんなに焦ってるのが凄く…嬉しかった。
だって、そうだろ?
零一の頭の中、俺の事でいっぱい…だから…

俺だけを、見つめて…俺の、事だけを思って下さい…
もう…後悔、したくないから…
手に入れた、幸せを離したくないから…だから、ずっと…俺の傍に…いてください…

でも、まだ…零一には伝えないんだ。
あの人の…混乱してる顔を、もう少しだけ…見ていたいから。
今、作ってるリングが出来たら…きちんと話すから。
…約束。

END



はい!あとがきという名の反省文です!

ええ…無事に誕生日前に更新できましたよ!イエス!
で無謀過ぎる初の王子視点での小説は如何でしたでしょうか?
もう、ジブンはベスト尽くしました!無理です!王子口調難しいです(泣)
で…本当は生クリームを先生に塗り付けて…なんてプレイもあったんですが…
王子が終了させてしまったんで←は?
ええ、キャラクターが勝手に動くんですよ(笑)
では次はセンセ誕生日記念にて!
逃げます!