僕はどうしたんだろうな……
君の事を考えると不安になるんだ。君は僕と同じ気持ちなのかなって……

休日の昼下がり、人を訪ねるには良い時間帯だと思う。僕、氷上格は尊敬する僕の従兄の自宅マンション前に来ている。
僕の従兄はあの進学校で有名な私立はばたき学園で教師をしている。僕も従兄の下で学びたかったけど……不合格だった。
最初はその結果に対して不服に感じたが今は違う……彼女に会えたから。
僕はエントランスに踏み込みインターホンを鳴らす。このマンションは僕の親戚の所有物らしい。従兄はその一室を貰って一人暮らしをしている筈だった……

「はい。どちらさまでしょうか?」
受話器に出てきたのはどう捉えても従兄ではなく……女性だった。
「あ、もしかして零一さんの親戚さんか誰かでしょうか?」
受話器から聞こえる女性の声は明るく、どこか彼女に似ていると思った。
「こら、貸しなさい。コホン、どちらさまでしょうか?」
多分、女性から受話器を奪い取った従兄が応対したので僕は答える。
「氷上格です。相談したい事があり伺いました。お時間は宜しいでしょうか?」
「ああ。問題ない。入りなさい」
眼前の扉のロックが解除され僕は扉を開けエレベーターに乗り込んだ。目的の階のボタンを押し瞳を閉じた。
従兄なら……完全無欠な彼なら僕の悩みになんらかの解決手段を講じてくれる筈だから……
まあ、事前連絡をせずに訪問した事について説教されるのも覚悟しておかないとな。
到着のチャイムで瞳を開け、僕は目指す従兄の部屋のインターホンを鳴らす。
カチャっとドアが開く音がして女性がにっこり笑って出迎えてくれた。
「初めまして。零一さんの従兄弟さんなんだね?うん、よく似ているねえ」
僕を珍しいものを見るかのように爪先から頭のてっぺんまで不思議そうに見てくる相手に更に彼女の顔が重なる。外見は全く違うけど……似ている。
「こら、いつまで客人を玄関に居続けさせるつもりなんだ?君は」
様子を見て従兄が女性に声をかけると女性は少しバツが悪そうに笑みを浮かべ僕の前に一揃えスリッパを置いて、ぺこりと頭を下げてお茶の支度……と呟きパタパタと足早に去っていった。
「で、来訪前の事前連絡を事欠く程の用件は一体なんなんだ?」
リビングに誘導しながら従兄は僕に尋ねてきた。

「実は……」
ソファーに座るように促され僕は座る。機能性を追求したシンプルなデザインのソファー。僕も卒業して一国一城の主となった暁にはこんなインテリアが持てたら良いなと思う。
テーブルにコトリと氷の浮かんだ三人分アイスティーが置かれて先程の女性も従兄の隣にちょこんと座った。
「外は暑かっただろう?先に喉を潤しなさい」
「シロップとミルクが必要なら言ってね?」
僕は軽く頭を下げてグラスを手にしてアイスティーに口をつける。冷たい液体が喉を通り身体の中から冷やしてくれる。
「で、相談とは一体なんなんだ?余程、深刻な悩みなのか?」
従兄は気遣うような視線を僕に向け尋ねてくれる。僕の知っている従兄は僕と同じで他人に干渉する事もなく……

「僕は迷っているんです。変化を受け入れるか……否かをです」
「変化?」
「僕はある女性と出会い今まで自身が進んでいたレールに疑問が生じたんです。僕は僕自身の目標を達成させる為にそれが良策だと思い進んできました。けれど……彼女と接するようになってから彼女に与えられる変化を受け入れても良いかなと思いもするんです。でも、その変化を恐れる僕も居るのであり、どうすれば良いのか分からなくて……」
黙って聞いてくれた従兄は微かに苦笑を浮かべ答えてくれた。
「変化か。確かに受け入れ難いかも知れないな。しかし、その答えは自ら導き出しなさい。方程式はないからだ。私自身、悩みに悩んで答えは出した。然るにいずれは自ずと適切な回答が導き出される筈だ」

「答えになってません」
「質問する相手が間違っている。以上だ」
従兄はそれ以上はこの話題について触れたくないとばかりにグラスを手にしアイスティーに口をつける。
「答えはもう決まっているんじゃないかな?」
従兄の隣に座った女性がにっこりと笑いながら茶菓子を勧め問いかける。
「答え?」
「うん。格くんでいいかな?格くんはその女の子が好きなんでしょ?」
ストレートに尋ねられて僕は思わず顔を熱くさせた。耳まで真っ赤になっているんだろうな……
「ほら、当たりでしょ?だったら、答え出るでしょ?」
「あ……」
「全く君にはかなわないな」
溜息混じりで苦笑を浮かべる従兄を見て僕は気付いた。
従兄もまた変化を受け入れたんだって……
「ありがとうございます」
僕は礼を言い暇を告げ従兄の家を後にした。

僕は従兄の家から出て直ぐに携帯を取り出しボタンを押す。
ディスプレイには彼女の名前が表示され僕は震える手で携帯を握りしめ耳に当てる。
2コールで彼女の明るい声が受話器がら聞こえた。
「はい。どちらさまでしょうか?」
「氷上だ。今、話しても大丈夫かな?」
「うん。氷上くん?大丈夫だよ」
彼女の明るい声に僕は緊張感から解放されたように安堵の溜息を漏らした。
そのまま、デートの誘いを続ける。彼女は快く承諾をしてくれた。
携帯を切りポケットへ仕舞い込んで僕は決意を新たにするように拳をきつく握りしめた。
「やっと答えが出たよ。君に必ず話すから」

マンションの駐輪場に置かせて貰っていた自転車に乗り込んだ僕は訪れた時と違い清々しい気分で帰途へ向かい走り出した。
夕焼けに青い海が染まるように僕も君から与えられる色の変化を受け入れるよ。
ありがとう。大切な事に気付かせてくれて。

END


はい!ときメモGS2小説第二弾!です
ええ。格ルートやりながら雑談メールをしていて思いつきました(笑)
そうなんですよ。零一さんは格の従兄なんですよ!で、なんとなく格は零一さんをフューチャーしたキャラクターなんで尊敬してるかなと…
主人公の出番少なくてごめんなさい!
因みにあの後、一回しか聞けない告白チックな事を主人公に格は話すと♪
鈍感過ぎるぜ今度の主人公ちゃんもさぁ〜!
では格2周目逝ってきます♪