キンコンカンコーン

4限目終了のチャイムが鳴り響く

キンコンカンコーン

クラスメート達は思い思いの場所へと
友人同士が机を並べあったり誘い合い教室から出ていき食堂、または天気が良いので外へと食べに行くのだろう。
氷上格は気難しい顔を更に眉間に皺を寄せ不機嫌そうに溜息をつき弁当を小脇に抱え教室から独り出ていった。
彼の脇を購買へと向かう生徒が走り通り過ぎようとするが彼の姿を認めるなり“廊下は走らないように”と彼に叱責されるのを避けるようにとスピードを落としていく。

昼休み。それは彼にとって嫌な時間の一つだった。
たまに彼の前を果敢に走り去ろうとする生徒に注意をしながら彼は“いつもの場所”へと独り向かって行く。
生徒会執行部室と掲げられたドアを開いて入室しいつもの席へ座る。

窓から残暑のまだ眩しい日の光が差し込む中、彼の表情は沈んでいた。


彼、氷上格は孤独だった。彼の理想に対する熱意は周囲に確執を与え、彼の考えに同意する者は皆無に近かった。
それで彼の周囲には友人と呼べる者は居なく昼食を共にする相手も居なかった。
次第に昼食の時間になると居場所の無い教室から逃げるように部室で独り昼食をとるのが日課となりつつあった。

いただきます。と彼が呟くように言い弁当の蓋を開けたと同時に部室のドアが開いた。
「あ、格くん?こんにちは」
ドアを開けて入室した相手はにっこりと彼に笑いかける。
「水瀬君じゃないか?どうしたんだい?」
相手の姿を認めるなり彼は嬉しげな色を表情に浮かべた。
それと同時に独り昼食をとっている事を一番見られたくない相手に見られた事に気恥ずかしくなり視線を逸らす。
「わたしは忘れ物があったから。格くんはお仕事なのかな?偉いね」
「あ、ああ。そうなんだ。ちょっと片付けたい案件があったから昼休みを使って片付けようと思ってね」
格は彼女の問いに慌てて答える。
「そうなんだ。じゃあ邪魔しちゃ悪いよね。
あ、あった、あった」
彼女は目的の物を見つけると申し訳なさそうに苦笑を浮かべ彼に軽く会釈をし部室から足早に出ていった。
予測していなかった来訪者を彼はひきつった笑いを浮かべながら手を振り見送った。

彼女の姿が遠ざかると彼は部室のドアをゆっくりと閉めてよろついた足取りで席へと向かい座った。
広げようとした弁当の蓋を開けるが彼の食欲は失せ彼は両手で頭を抱え込み唸るように呟いた。
「参ったな……一番見られたくない相手に見られてしまうなんて……上手く誤魔化せられているならいいんだけどな
彼女の前ではいつも自信と余裕に満ち溢れた自分でいたい。
しかし、あの時の僕の表情は明らかに……」
彼は沈鬱な表情を浮かべ重い溜息を吐いた。



しかしながらも翌日の昼休み、やはり教室に居場所のない彼は生徒会執行部へ行くしか選択肢がなかった。
更に重い足取りで彼は部室へ向かいドアを開けると意外な人物が彼を迎えた。
「格くん、遅いよ。昼休みは短いんだからね。ほら、早く席について」
「み、水瀬君?」
彼女は彼が昨日座っていた席の隣に弁当を置き彼を笑いながら手招く。
彼は彼女の勢いにつられて彼女の隣にストンと腰を下ろした。
「格くん、食べないの?」
「あ、ああ。食べる。食べるよ」
彼は慌てて弁当の包み布を紐解き蓋を開けて箸を運ぶ。
「じゃあ、わたしもいただきます」
両手をパンと合わせて弁当に取りかかる相手に氷上はいただきますを言ってないことに気付いて彼が慌てていただきますというと彼女は笑った。
彼もつられて笑いだし部室内の空気の緊張は次第に和らいでいった。
「ねえ?なぜ君がここにいるんだい?」
暫くして我慢が出来なくなり問いかける氷上に彼女は少し困ったように眉根を上げてから彼に笑いかけた。
「格くんとお昼を一緒に食べたいからかな。
いつも、お昼一緒に食べたいなって思っていたから昨日ここで格くんの姿を見つけた時、ものすごく嬉しかったんだ。
昨日ははるると約束してたからチャンス逃しちゃったけどね」
彼女は心から残念そうな表情を浮かべ苦笑を漏らす。
「格くんが嫌じゃなければこれからも一緒に食べたいなと思っているんだけど良いかな?」
「い、嫌だなんてとんでもないよ!寧ろ喜んで歓迎させてもらうよ!」
慌てて身振りも交えながら否定する氷上に嬉しげな笑みを浮かべながら彼女はありがとうと彼に言った。
(ありがとうだなんて、僕が君に言いたいくらいだよ。憂鬱だった昼食の時間が楽しい時間になるからね)
彼は心の奥で彼女に感謝をしながら弁当の箸を進めていった。

実は立夏はあの後、偶然格が昼休みの時間になると独り姿を消してしまうという話を聞いて、彼のあの時の表情から事情を察していたのだが彼の自尊心を傷つけないようにと配慮をしていたのだった。
(でも格くんとお昼ご飯を一緒に食べたかったからよかったな)
彼女は隣に座って黙々としつつ嬉しげな表情を浮かべながら弁当に箸を運ぶ相手にホッとした表情をし同じく弁当の蓋を開けて卵焼きを口に運び満面の笑みを浮かべた。
残暑の日差しが雲の陰に隠れて和らぎ、涼しげな風がカーテンを優しく揺らしていった。



END
ご拝読ありがとうございます!!
久々の新作は氷上×主人公です。
実は寝起きにいきなり思いつきました(笑)
昼食タイムにヒカミッチはどうしているのかなという想像して話が頭の中で練り上がりました。
今年のヒカミッチ誕生日記念小説の複線です♪
ではお疲れ様でした♪