秋晴れの澄み切った青い空が気持ちの良い午後。
立夏は一人裏庭を歩いていた。
次第に色付いていく木々に表情を綻ばせ空に向かってうんと背伸びをすると見慣れた姿に気付いて顔を明るくさせる。
普段人通りも少なく立夏もたまに休息をとりにくるこの隠れスポットに共有者がいる事に気付いたのはごく最近で。
立夏は相手が居る方へとそろりと歩を進める。
夏には木陰が涼しい木の根本を枕代わりに胸元には配られた台本を開いたまま寝息を静かに立て穏やかな表情を浮かべている共有者に微笑みかけ隣にストンと腰を下ろした。
立夏は共有者ー氷上格の秋風に靡く前髪に触れてみたりもするが一向に起きる気配がない。
そのまま掛けたままになっている眼鏡をそっと外して傍に置いてみたり、そっと鼻を摘んだりと起きていたら確実に怒られてしまいそうな事に次々とチャレンジをしてみるが起きそうになかった。
開かれたままの台本のページが風で捲れパラパラと音を立てた。
立夏はそっと台本を閉じて彼の胸元に置き直した。
(格くん、練習していたのかな?)
今年の学園演劇の主役に抜擢された彼は生徒会執行部会長の任もあり多忙だ。
(わたしも頑張らなくちゃな)
そう呟き空を仰ぎ見る。立夏はふと悪戯を考えた子供の笑みを浮かべて格に視線を向けた。

「……ん。僕は眠っていたのか?」
なんだかまだ夢の中に居るようなフワフワとした温かく柔らかい感触に戸惑いながら格は目を開いた。
フワフワ?確かに夢の中でも雲の上に居るようなフワフワとした……と思った直後に彼の思考回路は停止した。
目の前には立夏の顔があったからだ。瞳は閉ざされて少し幸せそうな表情を浮かべて……眠っていた。
「み、水瀬くん?」
暫くして彼の思考回路は再起動するが数々の疑問符が浮かび上がる。何故ここに?
いや、待て?何故僕は君にひ、膝枕をされているんだ?
格は一瞬叫びかけたが心の中に留めるだけにしておいた。
彼は冷静に今の状況を分析しようと試みたが立夏の柔らかい膝枕の感触でたちどころに考えは霧散してしまう。
(僕は台本読みをしようとこの場所へ来たんだ。そうだ。で、眠ってしまったみたいだ。それが何故、水瀬くんに膝枕をされるという状況に結びつくんだ?)
心拍数最大、動悸息切れまでしかけてきた格は立夏の目覚める気配に気付いて固く目を閉じた。
(た、狸寝入りとは我ながら情けないよな。けど今の状況でどう君に声をかけたら良いんだっ!)
バクバクと高まる心音で気付かれないだろうかなどと考えている内に立夏が目を覚ました。
「……う……ん。あれ、わたしも眠っちゃってたみたい。けど気持ちの良い天気だもんね」
うん、と格を膝枕したまま軽く上体を後ろに反らして眠っている格に視線を向ける。
「まだ、眠ってるんだ?よっぽど疲れてるんだよね」
言いながら格の頬を指先でツンツンとつついてみる。
(うわっ!水瀬くんっ!それは反則だよっ!)
立夏はじーっと格の顔を見つめてボソッと耳元に囁くように呟いた。
「眠ったままのお姫様が起きないときは御伽噺の王子様はどうするんだったかな……
えっと、白雪姫だと……」
(な、なにをするつもりなんだ?)
既に口から心臓が飛び出さんとばかりな格は目を閉じたまま思わず心の中で叫ぶ。
「お姫様は王子様のキスで目覚めるんだよね」
と言いながら立夏は格の顔に顔を近付けていった。
(キ、キスっ!)
目は閉じているけれど立夏の甘い吐息を感じて格は慌てて飛び起きた。

「み、水瀬くんっ!神聖な学びやでこういった行為をするのは高校生としてどうだろうかっ?」
「やっと、起きたね。格くん。おはよう」
にっこりと彼に微笑みかける立夏に格は全てを悟った。
「き、君は気付いていて……」
混乱し言葉にならない彼に彼女はサラリと答える。
「格くんだって狸寝入りしていたでしょ?
だから、おあいこだよ」
「そ、それは……すまないと思ってる」
狸寝入りをしざる得なかったのは立夏のせいということも忘れて悄々と頭を垂れる格に立夏は少し悪いことをしたかな〜と思い苦笑いを浮かべた。
「ね、格くん。少し寒くなってきたし中、入ろうか?食堂で温かいものをとってから一緒に台本読みしようよ」
立ち上がって手を差し出す彼女に格は苦笑いを浮かべながら手を重ねる。
「全く、君には敵わないよな」


そう、君の前だと僕は新しい僕を見つけられるんだ。
決められたレール上を走る僕とは違う新しい僕に。
「君と出逢えて本当に良かった」
「ん?格くん。なにかいった?」
「いや。別に」
この言葉は特別な日までとっておくよ。
君に対する言葉では言い尽くせない感謝と君に対する想いを打ち明けるその日まで。
その日はもうすぐだ。
来年、桜の花が咲く頃に……

ーENDー

はい!なんとなく思いついた格小説です!
ん〜。学園演劇練習中みたいなシチュエーションを一度は書いてみたかったんですよね。
反省文はブログにてぶっちゃけます!
では、ここまで読んで下さりありがとうございます!
お疲れ様でした〜