(最近…零一のヤツ、顔見せなくなったなぁ…。)
俺は溜息混じりでスーツルを磨きながら呟いた。
「どうしたんですか?恋わずらいみたいな顔してますよ?」
バイトのヤツにからかわれて俺は少し睨みつけた。
「恋わずらいなんてものじゃないよ。少し寂しいだけなんだ。ほら、開店の準備をしたしたっ!」
明らかにバイトに当たってるよな…俺。
でもよ…恋わずらいはあり得ないからさ。アイツは俺の親友で俺の飽きないオモチャなんだからさ。
「でも、やっぱアイツの顔を見ないと調子狂うなぁ…今度のオフの日にでもアイツんち行ってみっか…。」
そう決心するとなんだか気持ちが楽になった俺はお気に入りのジャズを口ずさみながら開店準備を始めたんだ。
(手土産はなににするかなぁ…酒なんかどうだろう。アイツの好きなジンの良いボトルでも持ってくかな。)
俺は階段を上がり店の看板の電気を点けに行った。
外は暗くなっていて街灯の明かりがポツポツと点灯していくところだった。
不意に俺は見慣れた姿に気付いた。遠目からでも分かる背の高いシルエット。
「零一…。」
声をかけかけて俺はやめた。アイツの楽しそうな顔を見たらさ。
アイツは生徒さんと二人で歩いているみたいだった。
アイツより背は低いけど綺麗な顔立ちの男の子とアイツは買い物袋を手に談笑している。
俺がアイツを思いやきもきしてたっていうのになっ!
へっ…やきもき…?なんか変だよな?俺…はぁ…今日は家帰って早く寝るとするかなぁ…
俺は零一たちが遠ざかっていくのを見つめてから階段を降りて店に戻って行った。
(こうなったら、連絡無しでアイツんちに押し掛けてやるからな…覚悟してろよ!零一。)
俺はアイスピックでガシガシと氷を砕きながらにやりと笑みを浮かべた。
そんな俺を遠巻きにバイトのヤツが見ていても関係なかった。
カレンダーを見ると明日は日曜日だった。アイツは家に居る筈だ。
「明日は臨時休業日にするから。よろしくな?」
俺は満面の笑みを浮かべてバイトのヤツらに告げたんだ。
(なんでアイツの事でこんなに苛つくんだよ…)
顔では笑顔を取り繕いながら俺の心の中は穏やかじゃなかったんだ。
目覚ましのアラームを止める。休みの俺にしては早起きの様だ。
午前9時過ぎ。アイツはもう起きて家事一般を黙々とこなしてるんだろうなぁ。
アイツみたいなのを嫁さんにもらったら楽だろうなぁ…ってアイツに聞かれたら怒られちまうな?
俺は支度をしてとっときのジンのボトルを手にアイツのマンションに向かった。
バイクを停めてアイツの部屋のボタンを押す。
「はい、氷室ですが?どなたでしょうか?」
アイツには珍しく寝起きの声みたいだった。
「よお!久しぶり。なんだ、寝てたのか?珍しいな…」
俺が言い終わる前にアイツは言葉を切った。
「益田?おまえか?待て、10分後に開錠するっ!以上。」
なんだか慌てた様子でインターホンを切られた俺は呆気にとられた表情でモニターカメラを見つめていた。
(なんで10分後なんだ?部屋が汚いのか?いやアイツの事だ。あり得ないよな。)
丁度、10分後に開いたドアをくぐり俺はエレベータのスイッチを押した。
到着したエレベータに乗り込むと俺はガラス張りのエレベータから外を眺めた。
(らしくないよな…。アイツ怒るかな。)
アイツの部屋がある階に到着した俺はアイツの部屋のインターホンを押した。
「開いている。」
中から不機嫌そうなアイツの声に俺は苦笑を浮かべた。
「じゃあ、邪魔するぜ?」
勝手知ったる他人の我が家ってヤツで俺はドアを開けて玄関からアイツの居るリビングへ向かった。
リビングには不機嫌そうな顔をした親友と…もう一人、昨日零一と談笑していた男の子が座っていた。
「で、用件はなんなんだ?」
アイツは溜息をついて俺に尋ねた。
「用ってヤツがなきゃ親友の家に遊びに来ちゃいけないのか?」
「そうとは言ってはいない。しかし、俺にも都合というものがあるのであって…。」
俺はまた苛ついてきたんだ。生徒は招き入れているのに長年の親友は招かざる客なのかって…。
「で、生徒さんなら良いってんだな?教育者の鏡だねえ?」
「益田っ!」
アイツが何かを言いかけたけど俺はお構いなしに続けた。
「で、君は休みの日にまで先生に勉強教えてもらってたりするんだ?よかったなぁ、零一。向学心旺盛な生徒さんなんておまえのストライクど真ん中じゃん?」
「益田っ!一体どうしたんだ?らしくないぞ…。」
俺はいつの間にか親友の胸ぐらを掴んでいた。
動じることもなくその様子を傍観していたアイツの生徒が立ち上がり俺から零一を引き離して零一をかばうように立ちはだかり俺を睨みつけてきたんだ…
「あんた…うるさい。邪魔だ…。」
「葉月やめなさい。益田も大人げないぞ?」
アイツは懸命に俺たちを止めようと声をかけた。
でもさっきの言葉に少しプチっときた俺は同じように睨み返して言ったんだ。
「へえ…生徒さん、なかなか強気だねえ?名前、なんて言うのかな?」
「…葉月…珪。」
「じゃあ、葉月くん。俺、少し零一と話があるから出ていってくれないかな?」
「…悪いけど。断る。俺も、先生に用…あるから。」
「用?用なら明日、学校で聞けばいいんじゃないのか?」
「…無理。学校だと…怒られるから…。」
不意に葉月は零一の身体を抱き寄せて零一の唇に唇を重ねた。
「こ、こら、やめなさいっ!葉月っ!」
顔を離された零一は息を整えながら葉月を窘めているみたいだった。
葉月は零一を抱き寄せたまま俺に言った。
「…これで分かった…だろ?あんたの方が…邪魔だって。」
葉月は余裕に満ちた笑顔を俺に向けて言った。
俺は訳が分からなくなっていた。零一が生徒とキスをして…しかも男子生徒だって?
零一が誰かといつかは一緒になると良いなとは思ってたけどさ…それは女性だった時であって…心の底から零一が選んだ人を祝福するつもりだったけど…
だから俺はアイツに感じていたやるせない想いを隠してたんだ。
大切なアイツだからまっとうに幸せを掴んで欲しいから…
なのになんだ?アイツが選んだのは俺と同じ男じゃないか?
俺は葉月を突き飛ばして零一の腕を掴んでソファーの上に押し倒した。
「こらっ!益田、悪ふざけはやめろっ!」
「少し黙れよ…零一。説教は後できくからさ…。」
俺はアイツの唇を唇で塞いでキスを重ねた。
きつく閉じられたアイツの唇を無理矢理指でこじ開けて舌を絡めた。
アイツは拳を握りしめてじっと耐えているようだった。
「抵抗しないのか?」
俺は零一のシャツの間に手を差し入れながら耳元で囁いた。
「おまえがこれで気が済むのなら我慢しよう。しかし、済まない。俺はおまえの気持ちに答えてやることが出来ないんだ。俺が愛しているのは葉月珪、一人だけだからだ。」
止めようとしている葉月に柔らかく笑いかけて
「葉月、頼むからこいつの好きな様にさせてやってくれ。」
葉月は黙って頷きその場へ座った。
俺はなんか気分が萎えて零一から身体を離した。
零一は起き上がり着衣を整えているようだった。
「悪い、俺、少しおかしかったな?葉月くんだったっけ?突き飛ばしたりしてごめんな?」
俺は立ち上がって零一と葉月の顔を交互に見つめて言った。
「じゃあ、幸せにな。お二人さん。」
「益田?」
俺は足早にその場から立ち去って行った。
なんか、元気ないですよ?マスター?」
「ん、そうみえるか?」
数日後の店の中で俺はバイトのヤツに尋ねられて軽く笑い返した。
(いくら俺でも落ち込むよな…失恋した訳だしさ…それにアイツとはもう…)
ドアが開く音に気付いて俺は顔を上げて入ってくる客の姿に目を疑った。
零一に…葉月?
「い、いらっしゃい…なんだ?なんでおまえが来るんだ?」
「この店は来た客を追い返す趣向があるのか?」
零一はいつもと変わらない態度で聞き返してきた。
「で、注文は?お二人さん。」
「レモネードだ。レモネードを2つ。」
「はいはい。」
俺は手慣れた手つきでレモネードを作り彼らの前に置いた。
「で、一体なんの用で来たんだよ?零一?」
俺は周りを気にする様に小声で尋ねた。
「ここは酒場だろう?酒を楽しみに来ただけだ。今日は同伴者が未成年故、酒は飲まないが。」
さらりと受け答えを返す相手に俺は力無く溜息をついたんだ。
「俺はおまえに合わす顔が無いと思ってたのに?」
「ああ、あの件か?問題ない。もう慣れた。」
零一はレモネードに口をつけて涼しげな顔で答えた。
「慣れたって?」
俺は零一の言葉に耳を疑った。
「おまえは酔うとすぐに絡んできただろう?まぁ、記憶に無いとは思うが。あれ位の事なら度々あったしな。」
(へっ?あれ位の事ならって俺、確か舌を絡めたよな?)
「でも…未遂だった…んですよね?俺が…先生の初めて…だから。」
葉月は少し不機嫌そうな表情を浮かべグラスを手にした。
「じゃあ…俺、酔った勢いでおまえに…キスしたりとかしてたのか?」
「…そういう事だ。だから気にする必要は無い。俺の話は以上だ。」
「以上だって、もう帰るのか?」
「ああ、未成年者と来ているからな。葉月、彼に謝るつもりだったのだろう?」
葉月は、はいと答えて俺を見つめて言ったんだ。
「この前…ごめん…なさい。先生の…大切な友達を…傷つけて…。」
俺はしおらしい葉月の態度に安心させる様に笑いかけて、
「いや、俺の方こそ大人げなかったよ。ごめんな?」
葉月は俺の耳元に顔を近付けて囁いた。
「でも…俺、先生を譲る気は…ありませんから。」
葉月は笑い返してそう俺に告げてから立ち上がった。
「では、お互い仲直りも出来た様だな。」
零一は嬉しそうに聞いてきたけど俺と葉月の仲はまだまだ良くなりそうにはないな。
葉月と零一が店を出ていくのを目で見送りながら俺は溜息をついたんだ。
(こんな事なら早くヤッちまえばよかったかもなぁ…)
俺はグラスを片づけながら後悔をしていった。
END
後書き…
タイトルは訪問者です。
はい…益田さん視点で訳が分からない話ですね…
ごめん、マスター!バカだよね…あれじゃ(汗)
で学生時代から酔いに任せて絡んでいたという…なんつーただれた青春時代←ただれてるのは貴様だ!
でセンセはその頃からマスターに鍛えられていたとしたら…何故、Nightmare
after
schoolで王子に骨抜きにされてるんだぁと(汗)
それは王子がテクニシャンだからです←逝け
王子の黄金の技の前ではセンセ形無しなんで←妄想の境地
王子はどんどん性格悪くなりそうです…でもさ?ゲーム上でも姫に手を出すヤツには容赦しないってカンジじゃないですか?(笑)
王子には姫(センセ)をこれからも守ってもらおうと(笑)
ええ、邪魔者はこれからも登場しますよ(笑)
ではありがとうございました!